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リレー小説9

リレー小説
07 /16 2010
リレー小説第9回

更新遅くなりました!
リレー小説9回目です。
私前回、第8回を思いっきり第7回って書いてましたね…。すみません。後で直します。


さてさて。
3番目に書いてくださったのは……葉山郁さんでした!
当ててくださった方もいらっしゃいました!
すごいですね。


というわけで、葉山さんの回始めます!


リレー小説これまでの簡単なあらすじ。
見たくない人用に白文字にしてます。

*あらすじ*

理不尽な世の中を、「そういうものだ」と諦めることで今まで生きてきたエム。
彼女は朝から晩まで縫製工場で働き、食うや食わずの毎日を送っていた。
ところがある日…
町をあげての一大行事――領主の息子の花嫁をお披露目する会――が行われる日のこと。
エムは見ず知らずの怪しげな老女に出会い、小さな巾着を押しつけられる。
それが、彼女の受難の始まりだった。

あらすじここまで。
 角を曲がった瞬間、すぐ鼻の先を何かが駆け抜けていった。
 え、と呟いたエムの眼前に桃色の裾が舞う。エムも扱うようなごわごわした安い生地だ。色合いだけは不自然なほど美しいが、縫製具合もたいしたものではない。正直、自分でも作れるほどだ。
 思わずそんなことを考え、そして反射的に角を乗り出してその光景を目にした。壁際に一人の男が立っている。両腕をあげて、眼鏡の奥の端整な顔立ちをゆがめているのは――「エドワード!?」
 飛び出た言葉に不意に視界に桃色が再び舞った。エムにも見慣れた安物の生地は丈の短い上着であり、その裾から黒タイツに包まれた敏捷そうな足が飛び出ている。くるり、とこちらを向いた相手を目にして、エムは身体を強張らせた。
 白に近い金髪の女性だ。まだ若く可愛らしい顔立ちをしているが、それは厳しく引き締まっていた。ひゅうとエムの背後で老婆が口笛を吹いた。
「こりゃサリー。派手にやってるね」
「やりたりないくらいよ、この大馬鹿の話聞いたあとじゃ、ねっ!」
 ふっと白金の頭が沈んだ。と思った瞬間、彼女の皮ブーツの踵がエドワードの眼前に襲来する。ただの威嚇ではない。咄嗟に横に避けたエドワードの、すぐ横の壁に踵はぶつかって派手な音を立てた。ぱらぱらと崩れていく壁の欠片を、沈黙の場が見守った。エムは無意識に自分の首がまわってそちらを向くのを感じた。女性は足を引き戻し、立っていた。なんど見ても細身の身体だ。だが。その踵をくらって、大理石の壁が割れ崩れている。「ようくわかったわ、エドワード、この大馬鹿」
「……なにがわかったというんだ」
「あなたに、エセルを任せられないってこと」
 二人のやり取りをさも面白そうに眺めている老婆にエムは思わず囁いた。
「あの二人、知り合いなのか」
「乳兄弟だよ。エセル坊と一緒に互いにオムツもとれてない頃からのね」
 思いも寄らぬ答えにエムは見つめた。対峙するエドワードと白金の髪の女性。知己の相手にするものとは到底思えぬ、冷ややかで激しい敵意がこもった視線をぶつけあう二人を。
「私はこの家の執事だ。家を守る義務がある」
「何が執事よ。主人のたった一つの望みも叶えられないくせに!」
「お前に、なにがわかる」
「あなたの眼鏡がちっともなんにも見えていないただの硝子だってことはわかるわよ」
 ぴりぴりと張り詰める場に、複数の足音が響いてきた。何事ですかエドワード様! という叫びも混じっている。この館の衛士たちだろう。迫る足音はもう近い。
 彼らがここにやってきてしまえば、一気に状勢が変わってしまう、とエムは咄嗟に思い、それはエドワード、サリーと呼ばれた女にも同時に理解できたようだ。展開が変わる瞬間、角から思わぬ人物が飛び出してきた。その人物を目にして、また場の空気が別の意味で凍りついた。なっ、とエドワードが声をあげる。
 栗色の髪、青い目、エセルレッドだ。もうあの奇怪な姿ではない。普通の――エムが対面したときのような人間の姿だ。彼は驚いた瞳で周囲を見回し、サリーの姿にいきあたって激しく息をのんだ。場は硬直している。
 そしてこの思わぬ遭遇が作り出した隙を、一人だけが逃さなかった。エムはその軽やかな足音が自分に向かっているのに気づいた。
 視界に桃色の腕が入っていた。その色はサリーのものだ。視界に入っていた、このまま行けば明らかに自分に衝突する腕が。するりとエムの首にまわり、そのまま後ろに持って行く。抵抗をいっさいしなかったせいか、激しい衝撃はなかった。足の裏が床から浮く。 サリーの腕にさらわれて背後に倒れ込むエムの真上に、馬蹄型にあいた窓枠を通り過ぎ、青い空が見える。そしてぐんぐん離れていく塔の先端。全身の血液をひかせる浮遊感。壁から身を乗り出してこちらを見下ろすエセルレッドの真っ青な顔。
「サリー!」
 絶望的な響きを帯びたエセルレッドの声に、不意に自分のすぐ横で威勢のよい声が放たれた。
「心配しないでエセル絶対諦めないから! そしてついでにエドワード頭の上にある眼鏡に気付かないで一生「眼鏡眼鏡」って捜し続ける呪いにでもかかれええええええええええええっ」
 恋人に向けた言葉より、憎い相手へ向けた呪いの言葉が激しい気がする――……。
 エムはそう、思い。
 そして意識を手放した。



 がらがらと車輪が道を行く音がする。時に小石にひっかかってがたん、と車体が揺れる。眠るにはたいしていい環境ではない。ああ、貧乏な家でもよりひどい状況というのはいくらでもあるものらしい。
「気づいたようだよ」
 近くで誰かが囁いた。しわがれた、そのせいだけではないが、なにかとても不快な声だ。できればもう二度と聞きたくない、と脳がわめくような。がたん、と車体が大きく揺れて停止し、エムは目をさました。自分をのぞきこんでいる相手がいる。濃い茶色の影になって相手の顔はよく見えないが、皺が刻まれた顔と皺ひとつない若々しい顔――。
 一気にすべてが蘇って、がばっとエムは身を起こした。激しい動きに少し頭がくらくらしたが、片手で抑えて反芻しているうちにむしろ自分の身がその程度の不調しか負っていないことに空恐ろしくなってくる。窓から見下ろしたあの高さ。教会の先よりまだ高かった。そこから、落下した、……確かに。
 そこで顔をあげた。もう影になっていない一対の顔がある。エムにこれまでのすべての災厄を運んできた二度と耳にしたくない声の持ち主、老婆と到底信じられない動きを見せた若い女性サリー。どちらも夢――それも間違いなく悪夢――の登場人物にしてしまいたい相手だが、しっかりとこちらを見据えている姿はいくら自分をだましてもそんな幻想の人間にするわけにはいかないようだった。
「大丈夫?」
 微妙に強張った声音にエムは素直にうなずいていいかわからず、顔を強張らせたにとどめた。どっちにしろ自分の様子を見れば、まったく不思議だが身体に問題はないことが悟れるはずだ。エムは目前の、桃色の上着のサリーに正面から向き直った。
「自己紹介がまだだったわね」
 怒ったような顔をして相手は言って、手を差し出した。
「あなたの恋敵、サリーよ」
「ちょっと待ってくれ!」
 するとさらに相手はむっとしたようだ。
「心外ね。いくら憎い恋敵だからって、握手に見せかけて手を握りつぶしたりはしないわ」
「えっ、いや、ちょっと、そういうことじゃなくて」
「あなたが認めなくたって、わたしはあなたの恋敵よ!」
「だから、そこから違う!」
 エムは叫んで、周囲を見回す。老婆がいた。にやり、と笑っている顔を見て、思わずつかみかかる。
「どういう説明をしたんだ! あんたは」
「これ、年寄りを手荒に扱うんじゃないよ。あたしゃサリーになんにも言いやしなかったよ。自分の男を他の女がぜんぶ狙ってると思い込むのも恋の病にかかったものにゃよくあることだよ」
「つまり、誤解を積極的に解きもしなかったんだな」
 老婆が肩をすくめて笑って見せた。もうこの老人には何も期待も頼りもすまい、とエムは見切りをつけてサリーに向き直った。意識を失う前に見た彼女の凄まじい破壊力は真面目に考えると怖気づきそうなので、不審そうにこちらを見つめてくるサリーをつとめて冷静に見つめた。
「私は、何も関係ないんだ。突然、頼まれて不慮の事故で鳥を逃がしてしまって、逃げようとしていたところなんだ。あなたの想い人のことも、知らない相手だ。なんとも思っていない」
「……本当?」
「嘘をつく理由がない」
 じっと軽くつりあがった緑色の瞳がエムをのぞきこむ。隅々まで調べられているようで、エムは後ろ暗いところがないように懸命に見返した。口付けでもしそうな距離の顔がやがて離れていった。
「わかったわ。えっと、エム、さん。巻き込んでしまって、ごめんなさい。改めて自己紹介するわ。わたしはサリー。エセルの――……」
「……恋人?」
「みたいなもの」
 サリーが肩をすくめた。
「あの、執事のエド――」
「わたしにたいしてその名前は使わないで。眼鏡でよろしく」
「……め、眼鏡の人は」
 人もいらないわ、とぶつぶつ言っていたが、サリーは打ち切って顔をあげた。
「私は昔、母がエセルの乳母をつとめていたの。母はそのうち身体を壊して亡くなってしまったけれど、母以外に身寄りが無かった私はそのまましばらくは伯爵家に厄介になっていて、エド……眼鏡も先代の執事の息子だから、まあ、一応昔から知ってるわ」
 昔は眼鏡かけてなかったのよ、といささか余計なつけたしがあった。その相手をエムは見つめて慎重に反芻する。あの、巨人の話。めが――もといエドワードが”エゼルレッド様の想い人”とおそろしく他人行儀に語った相手がサリーに間違いはない。自身も少なからず関わっている人間なのに、まるで知らない人間を語るような口ぶりもまあ短時間ながら知っためが――もといエドワードの人となりを考えると不自然でもない。問題は彼の人となりではなく、彼の言ったことだ。
 ――エセルレッド様の想い人は彼が半分巨大化していることなど知りません。
 エムはサリーをそっと見上げた。一瞬迷ったが、何も口にしないことに決めて横に視線をそらす。この二人の恋人同士の間に自分は望んでなど一度もいないが、もう関わりすぎている、と思う。視界には整備の悪い街道の道筋が目に入る……。
 そこでふとエムは顔をあげ、身を乗り出した。自分が今、腰をつけているのはひかれる荷台だ。小さな幌馬車のようで、前半分だけ幌があり後半の部分は前に引き寄せられて、青空が見える。心臓が高鳴った。慌てて荷台の端に寄る。
 新たに視界に入ったのはシンプルな光景だった。寂れた荒野に一本の道がくねくねと走っていて、その遥か後方に肌色の城壁が見える。掌に乗るほど小さく見えた。その壁の中に、エムの家も仕事場も変わりない日常もある、はずだ。
「な、なんで!?」
 正確な問いにはならなかったが、サリーはくみとってくれたようだ。なんでもないことのようにうなずいた。
「巨人の国に向かっているの」
「きょ、きょ……」
「巨人だよ、お嬢さん」
 老婆がつぶやき、どれ、じゃあ進めるか道は長い、と御者台に消えた。サリーと老婆、どちらに向かうか迷ってエムはサリーを向いた。
「きょ、巨人の話……は」
「たったさっき、あの馬鹿眼鏡から聞いたわ。よくも何年も隠しておいたわね、眼鏡」
「そ、それはともかく。ど、どうして巨人の国に」
「呪いをとくのよ。エセルにそんな呪いをかけたままにしてはおけないわ」
 サリーの言い方があまりにさり気ないので、言葉を失いそうになるのをエムは必死に息継ぎつかえて身を奮い立たせる。
「な、なんで私がここにいるんだ!」
「だって、あなたを残していったら、エセル、あなたと結婚させられちゃうじゃない」
「……」
「隠れても無駄よ。あの眼鏡のそういう厭らしさったらないわよ。あの街にいたらきっと三日も持たないわよ。他所の街に逃げたって、一週間持つかどうか。そうしたら、あなたも連れて行くしかないじゃない」
「……」
 ほんの少し前までは手厚く監禁されていた身としては、それはひしひしと身にしみた。だが、それとの二択が寝物語にしか聞いたことがないような、巨人の国への同行とはあまりにひどすぎる。
「勘弁してくれ!」
「じゃあ、あなた。このまま戻ってエセルと結婚する気?」
「……」
「残念だけど、それはさせてあげられない。エセルのために」
 静かに呟いてサリーはエムに見せ付けるように何かを持ち上げて見せた。大きな蹄鉄だった。「見て」
 サリーの白い指がそれを触る。ぐにゃりと、蹄鉄が逆方向に曲がった。まだそれがどういう意味を表すのかわからないエムの前で、サリーは何気なく呟いた。
「私には、願いがある。エセルを幸せにする。それが、わたしの願い。わたしのこの力。何世代か昔、何かの拍子で巨人の血が家系に混じってしまったので、それが私に出たと言われたわ。昔はよく化け物と呼ばれて、ただいるだけで嫌われて、怯えられて、泣かされたわ。でも、エセルが、僕は好きだよ、って言ってくれた。僕は怖くないって。エセルが他の人と結婚して幸せになれるなら、それでいい。でも、エセルがわたしがいないと幸せになれないと言うなら、わたし、絶対になんとかする。もし、エセルの呪いがどうしてもとけないなら、わたしも巨人になる。そうしたら、エセルも、少しは寂しくなくなるでしょ。ともかくどうするにしろ、巨人の国に行って、巨人達に会わないと始まらないの。あなたの身の安全は私が保障してあげるから、心配いらないわ」
 エムはサリーを見つめた。色々な情報が入りすぎて、もう頭がまともに働かない。ただともかく。見つめてくる緑の瞳から、彼女と自分の覚悟の違いだけは激しくわかった。その気持ちを自分が翻させることの絶望的な困難さも。
 そうして、初めてエムはあけすけに手放しに泣き出したい気持ちになった。散々な目に遭ってきたが、ここでようやく押さえ込んできたが、実際には数十回思ってもおかしくなかったパニックをおこし恥も外聞もなくわめきちらしたいという衝動が、ひっくるめてやってきたような感じだ。
「そんな、だって、私は」
 口元に手をあてる。理不尽さにたいして、とめどもなくやるせない気持ちがわきあがってくる。そんなエムの様子を目にしても、サリーの瞳は揺るがなかったが、彼女はひょいと脇に移動して耳元で囁いた。
「じゃあ。エム、あなたの望みはなに?」
「……え」
「あなたの、望み」
「わ、わたしの望み……?」
「そう。夢とか願いとか。それはなに」
「な、なんで急に」
「私の望みを叶えるためにあなたには付き合ってもらうから、それがすんだら今度はあなたの望みを叶えるために私が協力するわ。私、あなたの望みのためになんでもする。エセルを不幸せにすること以外なら」
 呆然としたエムに彼女の問いがこだまする。祭りのあの市場から始まりおこったこと、すべてが消えて夢になってしまい、自分にあの元の日常が戻ってくること。望みは見つかったが、サリーを前に口に出せなかった。多分、彼女が聞いていることはそういうことではないのだ。安定や諦めの入り混じった日常、そういうものと、サリーの願いは同じものではない。もちろん比べて卑下するつもりはない。だが、エム自身もわかっている。サリーが聞いているのは、エムが一度も抱いたことのない、人生に向かい道を切り開いた先にある希望や願いだ。
 沈黙するエムにむかってサリーはのぞきこむ。
「言えない望みなの? それとも望みがないの?」
「……」
 沈黙し続けるエムに、やがてサリーがそっと離れる気配がした。
「じゃあ、考えておいて」
 馬が鞭をくわえられたのだろう。小さないななきと共にがたんと揺れて、馬車が引かれる速さがまたあがる。
「せめて、巨人の国に着くまでには」
 幌の向こうに、一番星の姿が見えた。

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