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リレー小説3

リレー小説
02 /05 2010
リレー小説第3回

これまでの簡単なあらすじ。見たくない人用に白文字にしてます。拍手コメントは次回!

*あらすじ*
理不尽な世の中を、「そういうものだ」と諦めることで今まで生きてきたエム。
彼女は朝から晩まで縫製工場で働き、食うや食わずの毎日を送っていた。
ところがある日…
町をあげての一大行事――領主の息子の花嫁をお披露目する会――が行われる日のこと。
エムは見ず知らずの怪しげな老女に出会う。
その老女に小さな巾着を押しつけられたエムは、老女に言われるがまま仕方なく、
その巾着をお披露目会が開かれる大広場に持って行く。
お披露目会の余興では、花嫁となる娘が虹色の小鳥を空に放つのが習わしとなっている。しかも偽の花嫁役も用意され、普通の小鳥を何羽か放って人々を沸かせるという前座付き。
大広場の賑わいを前に戸惑うエムだったが、関係者と思しき女の子をみつけてなんとか近寄ろうとする。しかしその途中、巾着を取り落とし、中身が飛び出てしまうのだった。途端、沸き起こる歓声。周囲の人々はエムに笑顔を見せ、祝いの言葉を投げかける。
我に返ったエムの耳に届いたのは「あの小鳥は私の小鳥なんだから!」という甲高い声。
気まずい空気が立ち込めるのを感じ、エムは一目散にその場から逃げ出したのだが…。

あらすじここまで。

 滅多なことでは「後悔」などしたことがない。
 けれど漠然と、後悔というものは、おそらく見慣れたすすけた部屋の隅っこに、おそらく見慣れた暗い天井のしみに、おそらく見慣れたこもった臭いを漂わせる縫製工場の中に、あるのだと思っていた。それがエムの世界のすべてだからだ。
 だが、その中でのみ紡がれた人生の中で、エムは初めて知った。
 後悔というものは、赤と金糸の絨毯が敷きつめられた部屋の石造りの暖炉に、エムが三倍に伸びても届かない高い天井にぶらさがるシャンデリアに、むせかえるような芳香を漂わせる巨大な花瓶の中にある。
 エムはちらりと目だけを動かして今自分がいる場所を確認し、感じる眩暈がもっと大きく、このまま意識を手放せるまでにひどくならないかと祈った。
 だが、祈りもむなしく閉じた目の中で意識は揺れず、広がることと言えば、逃げ帰った自分のすすけた部屋で、嫌な予感をねじふせて水だけを飲んで寝床にもぐったこと。一睡もできない夜明けの後に、自分の部屋の扉が鳴った音。のぞいた大家の老夫婦の凍りついたような顔。傾いた古家の前にとまっていた二台の馬にひかれた黒い馬車。使いだと言葉少なく名乗った黒い服の背の高い男。そして馬車に乗り込むときに見返った再び老夫婦の顔!
 そして馬車がたどりついた、町の北に位置する石造りの古城の一室にエムは今立っている。領主と領主の一族が住む城の高い尖塔を、馬車から直に目にしたときの叫びだしたい気持ちをまざまざと思い返し、エムはうっすらと目を開けた。
 後悔が具現化した世界の中に、一人の若者が立っている。
 絹で作られた上着の型は流行の最新、その下にサテンのベストがかすかにのぞく。首の下には赤いクラバット、何気なくつけられている袖口の緑色のカフスはおそらく孔雀石。輝きといい大きさといい、エムの一生分の賃金を投げ打っても手に入れることは叶うまい。
 白襟の上に、涼しげな顔がのっていた。栗色の前髪からのぞく青い瞳がじっとエムを見据えている。
「エセルレッドと申します」
 若者がそう言ったのだと気づいたときは、すでに軽い会釈から顔があげられた後だった。エムは自分もまた名乗らなければならないのか、と逡巡がよぎる。だが、舌は乾ききっている。
 するとエムの顔に出た焦りを読んだように若者は目を細めた。
「存じております。エムさん、ですね。失礼ですが、少し調べさせてもらいました。町の縫製士とか。腕がよく勤務態度も真面目な立派な職人と聞いています」
 どうやって調べたのかはしらないが、彼の情報網はあまりあてにならないようだ。だが、言葉もでずにエムは小さく首を横にふった。瞳を伏せた若者にはその動作は目に入らなかったらしい。依然、舌は乾ききっている。
「ですが、おそらく領主の花嫁とは認められなかったでしょう。昨日、までは」
 必死に訂正の言葉をしぼりだそうとした矢先、若者の口から出たとんでもない言葉にエムは目を剥き、そしてむせた。つかえた喉奥から咳を吐き出して今度こそは声をふりしぼる。
「ま、まちがいです!」
「ええ。誰もがまちがいとわかっています。でも、それは誰も正すことのできないまちがいです」
 再び目を剥くエムを前に若者が続けた。
「だから、それに賭けたのです」
 ――だけど、私は頼まれただけだ!
 エムがそう叫ぶよりも、半瞬早く若者の口から出た言葉にエムはまたもや声をあげられず、飛び込んできた彼の言葉を復唱してそして、眉を寄せた。
「賭けた……?」
「彼女にお会いになりましたか」
「彼女……?」
 くすりと彼は笑った。細められた青い双眸に優しい光が揺らめいた。
「きかんきの強い女性だから、あなたになにか失礼なことをしたのではないかと」
 エムの中で昨日の、できれば忘却のゴミ箱に叩き込みたい記憶がよみがえる。何か鮮やかなものが視界を横切った。巾着袋が開いている。中は空。そして歓声を切る甲高い声。絶望と失望の叫び。
 ――あの小鳥は私の小鳥なんだから!
「彼女は花嫁ではありません。領主の花嫁として決められた花嫁は別にいます。――だから、僕達は賭けるしかなくて」
 エムが思わず顔をあげると、若者は部屋の脇にある窓に歩みより、その桟に片手をついてじっと硝子の向こうに視線を投げていた。
「この窓で、昨日、僕は肘をつき頭を垂れ祈っていました。祈ることしか、昨日の僕にはできませんでした。僕達は互いに会うこともできなくて、それでも未来を望んで、僕は鳥をすりかえました。彼女は広場で待っている手はずでした。鳥を遣いに託して後はただ祈りつづけました」  
 若者の肩の縁が揺れている。重く苦しい何かを抱えて堪えるように、桟におかれた拳も硬く握りしめられ震えている。けれどエムが見ているうちに、ふっと全身から力が抜けたように拳はとかれ桟からおろされた。そして若者はエムに振り向き、寂しげに微笑んだ。
「最後の希望だったんです。最後の」
 無意識に一歩後ずさり、エムは喉に空唾をおしこんだ。舌はしめってきていたが、言葉なぞ、もう、どこにもない。


コメント

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No title

担当Yです。
かっこよさげな男の人が出てきました! なんとなく先が見えてきた感じですね。いや…ひっくり返されるかもしれない。どうなるか楽しみです。

レガロシリーズ編集部

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